結局私達の関係って何なんだろう。幼馴染?婚約者?どちらも合っているはずなのに、どちらも違う気がする。
帰国して久しぶりに会った鏡夜はまるで別人だった。
今までそこにあった壁が取り払われた代わりに、遠くに行ってしまったような感覚。
そしてその隣にいるのは、須王家のご子息―須王環だ。
彼は私が辿り着けなかった場所に、涼しい顔で居座っていた。
私が知らない鏡夜の顔を、彼は知っている。私が届かなかった鏡夜の心を、彼はその手で掴んでいる。
悔しくて、悲しくて、寂しくて、いろんな感情が頭の中で交錯した。
けれどどう足掻いても、きっと私は彼に勝てない。
どうしようもない焦燥感が、私の心を埋め尽くす。
あれ、この気持ちってもしかして
私にヤキモチやいてもらえるなんて幸せ者ね、と精一杯の強がりを言ってみたけれど、きっとこの男のことだ、口には出さなかったことも全部見透かしてるに違いない。 そして良いものを手に入れたと言わんばかりにこの弱みを掌の中で転がしながら、ムリヤリ不平等条約を結ばせたりするんだ。 ああ、こんなこと話すんじゃなかった。なんでよりによって当の本人に相談してしまったのか。 しかもあの男、須王環のせいで、以前にも増して黒さが滲み出ている。自分の愚かさを呪った。 ていうかよく考えたら私、男にヤキモチやいてるのか…それもどうなんだろう。 あれこれ考えているうちに鏡夜が発した返答は、条約のことではなかった。 「お前、長距離走は得意だったか」 視線を手元のノートに落としたまま、表情を変えずに淡々とした声で紡がれた言葉は、けれどその様とは少し不釣合いで、 「え」 思いもよらない質問に、一瞬思考回路が止まる。 チョウキョリソウ、長距離走?いきなり何を言い出すのか。 だいたい長距離どころか、駆け足だって滅多にしないのに、と考えを巡らせたところで、ふとあるところに行き着く。
「…つまり"ここまで走って来い"、と…」 パタンとノートを閉じると、柱に預けていた背を起こし、せいぜい頑張れよと言い残して扉の方へと向かった。 が、ふと何か思い出したように動作を小休止させる。 「ああ、でも」 こちらに背を向けたまま、 「 」
しばらく呆然としていると、パタンという音と共に鏡夜の姿は消えた。(親切に言い直してくれないあたりが彼らしい) 「あー…」 なんだか情けない声が出てしまった。何て言ったんだろう。このままでは収まりきらない。 それにあんな余裕綽々な顔されたままじゃ、やっぱり不服だ。
10キロだろうが20キロだろうが、絶対追いついてやらなくちゃ。
090924 |