藍染様の命令が無ければ、私達ギリアンは基本的に暇だ。
今もこうして暢気にイールフォルトの部屋で午後のお茶(いわゆるアフタヌーンティーと言うヤツだ)を嗜んでいる。
尤も、当のイールフォルトは茶を飲む気など全くもって無いらしく、寝台にだらんと寝転がっているのだが。
「イールフォルト」
「ん…?」
名を呼ぶと、すっ、と顔だけをこちらに向けた。瞼が重そうだ。
「眠いの?」
「……………眠いな」
そう言うと、イールフォルトは小さく欠伸をした。
「そう。じゃあ私そろそろ帰るね」
「あ、いや…別に帰らなくてもいいんじゃないか」
「え、」
てっきり眠りの妨げだ、と除け者にされると思っていた私は思わず間抜けな声を出してしまった。
どういう風の吹き回しだ。まさかイールフォルトに引き止められる日が来るなんて!もしかして寝惚けているのだろうか。
いや仮にそうだとしても今の言葉はあまりにイールフォルトらしくない。なさすぎる。
そもそも私は勝手に上がりこんで勝手にお茶会をしているというのに、なんなんだこの穏やかさは。
普段のイールフォルトなら真っ先に追い出すのに。ああ私はその時点で異変に気付くべきだったんだバカバカバカ!
ああもうどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう…
「…どうした?」
「あ、えっと、その…」
ここはお言葉に甘えておくべきか…?
「じゃあ、もう少しここにいるね」
「ああ…俺は寝る」
え、何それ。
それなら私帰ってもいいんじゃない?というかむしろ帰ったほうがいいんじゃないの?
確かに茶はまだ少し残っているがそんなもの捨ててしまえばいい(勿体無いけど)。
残っている茶菓子はイールフォルトが後で食べてくれればいい。
イールフォルトが眠りについてしまえば、私がここに残る理由は無くなるのだ。
「それなら、私、やっぱり帰ったほうが…」
「…そんなに帰りたいのか」
「いや、そういうわけじゃないけど…」
「ならいいだろう」
さて、どうしたものか。
茶は飲み干し、茶菓子もあと一欠片程となった今、次の行動を考えなければすぐ手持ち無沙汰になってしまう。
スカスカの頭をフル回転させようと足掻いていると、イールフォルトが一言呟いた。
「も寝るか?」
「へ?」
「来い」
ああ、とうとうイールフォルトは壊れてしまったようだ。私は頭の中が真っ白になった。ただでさえスカスカなのに更に追い討ちをかけるように。
そんな腑抜けになった私の腕をイールフォルトはぎゅっと掴んで引き寄せた。もちろん私は腑抜けているから寝台によろける。
寝台によろけるということはつまり、
イールフォルトに倒れ掛かるということだ。
「うあっ」
左から無言の威圧を感じる。まずいな…怒ったかな…いや、でも急に引っ張る方が悪いんだよね。
そしたらよろけるなんて当たり前じゃない。私は悪くない。
イールフォルトに乗っかったままあれこれ考えていると、今度は体をガシッと掴まれた。
「俺の上に乗った罰だ。今日はずっとこのままでいろ」
私の頭は真っ白どころかこのままブラックホールが発生しそうな勢いだ。
080705