Bloody Lady
あなたが何も言わずに部屋に入ってきたときは大抵、
私に抑えきれぬ欲を抱いているからだ。
真っ赤なネイルを塗っている最中の私にいきなり背後から抱きついたり、
正面にまわって塗りかけの左手をぎゅっと握って口付けをしたり、
こういうときのあなたは何をするか分からない。
もちろん私はそんなことはどうでもよくて、早くネイルを塗ってしまいたいのだけれど、
あなたはそれを許さない。
「、」
と耳元で囁くあなたに私は欲情なんてしない。
それはある種の駆け引きであって、そこで私があなたに触れたいと思ってしまえば
もう二度とあなたから逃れることはできなくなってしまう。
「なぁ、」
私の腕を握ったティキの手に、力が入った。
先程よりも体は密着していて、耳に生温かい吐息がかかる。
「ここんとこ全然暇が無くてさ、溜まってんのよ、いろいろ」
「あら、それは私がいなくても自分で処理できることでしょ?」
今はそんな気分じゃない。
遠まわしにそう言ったつもりだったけれど、あなたは分かってくれないみたい。
「じゃなきゃダメなんだって」
馬鹿じゃないのかと思う反面そんな馬鹿を少しでも愛おしいと思ってしまう私は、彼以上の大馬鹿だ。
まだ乾ききっていないネイルはベッドの上であなたの背中に移った。
まるで血のように、滲んだ紅。
まるでこの愛のように、滲んだ、色。
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06.10.14