B and W

 

 

適当に夕食を済ませ、自室に戻ろうとしたとき、
ティキが「後で俺の部屋に来い」と言っていたのを思い出した。

特にこれといった用事が思いつかなかった私は、何の迷いも無くティキの部屋を目指した。

 

「お、やっと来たか」

長椅子の上で煙草を吸っている彼はいつになく上機嫌で、
そして何故か"白"だった。

「何の用?」
にいいものを見せてやろうと思ってな」

彼はズボンのポケットから、何か鈍く光るものを取り出した。

「…石?」
「そ。綺麗だろ?バイト先で見つけたんだよ」

小さなその石は部屋の仄かな光をとりこんで、淡い色をはなっている。

「あら、人間のときは言わないの?『お前の方が綺麗だけど』、とか」
「あ、それ今言おうと…!!」
「ははっ」

やっぱりティキはティキね、と一言付け加えて、私は彼の左隣に腰掛けた。

すると彼は私の手をとって、石を私に握らせた。

「もらってもいいの?」
「綺麗なものは綺麗な人が持ってなきゃだめなの」

バカみたいに寒いセリフを口走る彼に苦笑しながら、私はその石を、羽織っていたジャケットの右ポケットに入れた。

「そういえば、」
「ん?」

私が唐突に切り出すと、彼はまるでそれが分かっていたような顔をしてこちらを向いた。

「どうして人間の姿なの。私が人間嫌いなのしってるでしょ?」
「さあ、なんででしょう」

彼はとぼけた返事をして席を立つと、沈んでいた椅子が少し浮いた。

 

「      」

「え…?」

 

聞こえない声でなにかを言い残して、彼は部屋を出ていった。

 

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06.10.24