あなたに冒されされた心

 

 

彼は何も言わず私の腹に刀を刺した。

無論、こんなことをしても死なないのは分かっている。

私も、彼も。

 

ただ彼が少しイライラしてたんだ。

右を見れば、左手が無い。

 

 

「私を刺して、どうするの?」

平然とした顔で訊ねた。つもり。

でも額には、微かに汗を掻いていた、私。

「はっ、知らねえ」

ズブ、と刀先が私の体を貫いた。

「私を殺したって、左手は戻ってこないわよ」
「黙れ」

彼は刃の向きを変えた。

刀はゆっくりと私の中心に向かって進んでいく。

 

意識はそこで、途絶えた。

 

 

目が覚めると腹部には包帯が巻かれていた。

 

 

 

それは暴力じゃない。

愛情表現が歪んでいるだけ。

彼も、そして私もきっと。

衝動に駆られて、壊れていく。

 

ああ愚心。ああ無常。

 

 

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06.05.02